土壌改良対策3/要素欠乏・過剰症の見分け方と対策

土壌改良対策 3

要素欠乏・過剰症の見分け方と対策

 植物の生育に必要不可欠な要素は、多量必須要素として炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、窒素(N)、リン(P)、カリ(K)、石灰(Ca)、苦土(Mg)、硫黄(S)、ケイ素(Si)が、微量必須要素として鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)が知られている。作物が健全に生育するためには、これらの必須元素が過不足なく、適当な時期に供給されなくてはならない。たとえ一つの要素といえども少なすぎたり多すぎたりすると、生育が阻害され、作物、要素、環境によりそれぞれ外観的に特徴のある欠乏症状、過剰症状を呈する。表-21に要素欠乏・過剰障害の一般的な症状を、表-22には要素ごとの欠乏症状・過剰症状とその対策を示した。

 葉面散布は、要素欠乏の対策として有効な手段であるが、栄養診断における判定結果が正しいかどうかをテストするために利用すると、土壌施用よりも速効的に確認することができる。表23(PDF:188KB)に葉面散布で一般に使用される試薬と濃度を示した。

01表21要素欠乏・過剰障害の一般的な症状

 

表-22

窒素
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 植物全体が一様に緑色を減じ、特にはの黄化が著しい。
  • 植物体は矮小になって、分げつが減少する。
  • 根の発達、伸張が鈍化する。
  • 子実の成熟が早くなり、収量が少なくなる。
  • 尿素溶液を葉面散布する。
  • 窒素肥料を水に溶かして土壌施用する。
  • 窒素肥料を施用する。
  • 堆きゅう肥を施用し、地力を高めておく。
  • 葉は濃緑色、軟弱となり、病害虫、冷害などの抵抗性が減少する。
  • 葉の伸張、分げつの増加が顕著で過繁茂となり、倒伏しやすい。
  • 病害虫にかかりやすい。
  • 出穂が遅延し、登熟不良のため品質が低下する。
  • 水稲では数日間落水し、土壌を乾燥させてから水をかけ流す。
  • 作付け前に生わらや未熟有機質などをすき込む。
  • 窒素肥料を計画的に施用する。

 

リン
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 欠乏症は一般に下葉より発生し、上葉におよぶ。
  • 葉の幅が狭くなり、茎や葉柄が紫色になる。
  • イネ科植物では分げつが少なく、開花、結実も悪くなる。
  • 果実類は甘みが少なくなって、品質が落ちる。
  • 根毛が粗大になり、発育不良となる。
  • りん酸二水素ナトリウム、りん酸二水素アンモニウム、りん酸水素二アンモニウムの溶液を葉面散布する。
  • りん酸肥料を施用する。苦土も欠乏している場合は苦土肥料を併用する。
  • 土壌の酸性を矯正しておく。
  • 堆きゅう肥や腐植質土壌改良資材を施用し、りん酸の固定を抑制する。
  • 過剰症はきわめて発生しにくい。
  • 成熟が早くなり、減収する。
  • りん酸の過剰施用は亜鉛、鉄、苦土欠乏を誘発することがある。

 

 

カリ
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 加里は移動しやすいので、欠乏症は旧葉より発生する。
  • 旧葉の先端により黄化し、葉縁に広がってその部分が褐色に枯死する。
  • 新葉は暗褐色となって、伸びが悪く小葉となる。
  • 根の伸びが悪く、根腐れが起きやすい。
  • 果実の肥大が衰え、味、外観ともに悪くなる。
  • 硫酸カリウム、塩化カリウム溶液を葉面散布する。
  • 加里肥料を施用する。
  • 堆きゅう肥を施用し、地力を高めておく。
  • 窒素と同じく過剰に吸収されやすいが、過剰症は発生しにくい。
  • 土壌中の加里の過剰は苦土や石灰の吸収を抑制し、これらの欠乏症を促進する。
  • 石灰質肥料、苦土肥料を施用し、土壌の塩基バランスを適正にしておく。
  • 加里肥料を計画的に施用する。

 

石灰
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 生体内で移動しにくいので、欠乏症は新葉から発生する。
  • 生長の盛んな若い葉の先端が白化し、やがて褐色枯死する。
  • 根の表皮にコルク層ができ、根が短く太くなる。
  • 子実の成熟が妨げられる(トマトの尻腐れ、セルリー・ハクサイの芯腐れ)。
  • 塩化カルシウム、硫酸カルシウムの溶液を葉面散布する。
  • 石灰肥料を施用する。
  • 土壌水分が過不足の無いようにかん水を行い、窒素肥料、加里肥料の施用を控える。
  • 過剰症は発生しにくい。
  • 石灰肥料の過剰施用は苦土、加里、りん酸の吸収を抑制し、鉄、マンガン、ほう素、亜鉛などの欠乏症を誘発することがある。
  • 硫安、塩亜、硫酸加里、塩化加里などの酸性肥料や硫黄華を施用する。
  • 土壌が乾燥するときは、マルチにより水分の蒸発を抑える。
  • 輪作作物としてアルファルファ、インゲン、トマト、サツマイモなどを栽培し、石灰を吸収させる。
  • 土壌のアルカリ性を矯正しておく。
  • 堆きゅう肥を施用して、土壌の緩衝作用を高めておくようにしておく。

 

苦土
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 葉緑素の形成が阻害され、葉脈間がイネ科植物では筋状に、広葉植物では網目状に黄化する。
  • 加里肥料を過剰施用すると苦土欠乏が発生しやすくなる。
  • 果実付近の葉に欠乏が出やすい。
  • 硫酸マグネシウム溶液を葉面散布する。
  • 苦土肥料を施用する。
  • 土壌中の加里過剰やりん酸欠乏を矯正する。
  • 土壌の酸性を矯正しておく。
  • 土壌中の苦土/石灰比が高いと、作物の生育障害が起きやすい。
  • 塩化カルシウム、硫酸カルシウムの溶液を葉面散布する。
  • 土壌pHが低い場合には石灰質肥料を施用する。

 

硫黄
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 全体的に生長が悪くなり、窒素欠乏と類似している。
  • 新葉よりも旧葉に顕著な黄化現象が認められる。
  • 硫安、硫酸加里を施用する。
  • 植物全体の過剰症はみられない。
  • 硫酸根肥料の多量施用は、土壌を酸性化し、老朽化水田では硫化水素発生の原因となる。
  • 硫酸酸性の場合はアルカリ性肥料、中性肥料や石灰肥料を施用する。

 

ケイ素
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 葉や茎が軟弱になって、病害虫にかかりやすく、倒伏しやすくなる。
  • 水稲では生育が衰えて、出穂が遅延し、稔実が悪くなる。
  • けい酸石灰を施用する。
  • わらを原料とした堆きゅう肥を施用する。
  • 鉱さい類の多施用による土壌pHの上げすぎは、種々の生理障害を引き起こす原因となる。
 

 

ホウ素
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 生長点が止まり、もろくなって芯止まりや芯枯れとなる。ナタネでは不稔粒が多くなる。
  • 茎や葉の中心が黒くなる。葉柄がコルク化する。
  • 果実にヤニができたり、コルク化がみられたりする。
  • 根の伸張が阻害されて、細根の発生が減少する。
  • ホウ砂、ホウ酸の溶液を葉面散布する。
  • ホウ砂、FTEを施用する。
  • 堆きゅう肥を施用する。
  • 土壌の過乾、過湿状態をさける。
  • 土壌のアルカリ性を矯正しておく。
  • 葉縁が黄化し、ついで褐変する。
  • 許容範囲が狭く、過剰症が出やすい。
  • 土壌の酸性を矯正しておく。

 

マンガン
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • イネ科植物では新葉がしま状に黄化し、さらに病状が進と壊死を起こす。
  • 広葉植物では斑点状の黄化や壊死がおこる。
  • 葉が小型になる。
  • 硫酸マンガン溶液を葉面散布する。
  • 硫安、塩安、塩化加里などの酸性肥料、硫黄華を施用する。
  • FTE、硫酸マンガンを施用する。
  • 堆きゅう肥を施用して、土壌の緩衝作用を高めるようにする。
  • 土壌のアルカリ性を矯正しておく。
  • 旧葉の先端に褐色~紫色の小班点ができる。
  • 鉄欠乏症が出ることもある。
  • 果樹類の異常落葉、腐植質土壌の開田後に発生する水稲の赤枯れをマンガン過剰とする説もある。
  • 土壌の酸性を矯正しておく。
  • 石灰質肥料を施用して、土壌の酸性を矯正する。
  • 土壌をやや乾燥状態にする。
  • 堆きゅう肥を施用して、土壌の緩衝作用を高めるようにする。

 

欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 葉緑素の生成が妨げられ、新葉が黄白化する。
  • りん、マンガン、銅の過剰吸収は鉄欠乏を助長する。
  • 硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、キレート鉄溶液を葉面散布する。
  • 果樹では、クエン酸鉄、りん酸第二鉄を樹幹に注入する。
  • 硫安、塩安、塩化加里などの酸性肥料、硫黄華を施用する。
  • キレート鉄を施用する。
  • 土壌のアルカリ性を矯正しておく。
  • 土壌の過乾状態を避ける。
  • 多量の鉄資材の施用はりん酸の固定を増して、りん酸欠乏になる。
  • 土壌の過湿状態を避ける。

 

亜鉛
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 葉脈間が黄化し、明瞭なしま状になる。黄化は新葉から始まり、中位葉におよぶ。
  • 葉が小型化する。
  • 細根が発育不全となる。
  • 硫酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛溶液を葉面散布する。
  • 硫安、塩安、塩化加里などの酸性肥料を施用する。
  • 硫酸亜鉛を施用する。
  • 堆きゅう肥を施用して、亜鉛を補給する。
  • 水溶性りん酸肥料の過剰使用を避ける。
  • 土壌のアルカリ性を矯正しておく。
  • 新葉が黄化し、さらに葉、葉柄に赤褐色の斑点を生じる。
  • 抵抗性は作物によって異なる。
  • 石灰質肥料を施用して、土壌の酸性を矯正する。
  • りん酸肥料を多施用して、亜鉛の吸収を抑える。

 

欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 麦類では新葉が黄白化、褐変し、よじれる。穂は萎縮症状を示したり、葉鞘から完全に抽出せず、稔実が悪い。
  • 果実の枝枯れは銅欠乏とされ、若枝に水ぶくれ状の斑点を生じる。葉には黄色斑点ができる。
  • 硫酸銅溶液を葉面散布する。
  • 硫酸銅を土壌に施用する。
  • 主根の伸張が阻害され、分岐根の発生が悪い。
  • 銅過剰は鉄欠乏を誘発する。
  • 生育不良となり、葉にクロロシスが現れる。
  • 石灰質肥料を施用して、土壌の酸性を矯正する。
  • りん酸肥料を多施用して、銅の吸収を抑える。
  • 堆きゅう肥を施用する。
  • 鉄欠乏を誘発した場合は、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、キレート鉄溶液を葉面散布する。

 

モリブデン
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 広葉植物では葉縁が内側に巻いてスプーン状になり、イネ科植物で葉がよじれる。
  • 症状は旧葉から現れる。葉は中央脈を残して鞘状になる。
  • 植物体の倭化など、症状は植物によって多種多様である。
  • モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム溶液を葉面散布する。
  • モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウムを土壌に施用する。
  • 土壌の酸性を矯正しておく。
  • 稲わら、緑肥などを施用してモリブデンを補給する。
  • 一般的に過剰症は現れにくい。
  • 葉にクロロシスが現れる。
  • ジャガイモでは小枝が赤黄色、トマトでは黄金食を呈する。
  • 硫安、硫酸加里、硫黄華などを施用してモリブデンの吸収を抑える。

 

塩素
欠乏症状 欠乏対策 過剰症状 過剰対策
  • 新葉が黄化する。
  • 葉の先端が萎縮し、ついでクロロシスを起こして、青銅色の壊死にまで進展する。
  • 塩安、塩化加里を施用する。
  • 塩害は塩素の過剰吸収でなく、食塩の高濃度害である。
  • イモ類は繊維が多くなり、品質が悪くなる。
  • タバコでは葉の品質が悪くなる。