(3)野菜
)栄養生理と施肥
 野菜は、品目・作型・栽培様式が多様であり、養分吸収量も著しい差異がある。同一品目でも収獲量に大きな幅があるため、土壌分析結果に基づいて、それぞれの品目に合った適正施肥を行い、健全な生育をはかるとともに環境保全に配慮する必要がある。したがって、野菜栽培を行う上でたい肥を投入し、土壌の養分保持力を高めることは極めて重要である。また農耕地では、一般に毎年10a当たり150kgの腐植が失われ、たい肥の10分の1が腐植となることから、年間1,500kg以上のたい肥を投入しなければ腐植含量を維持することはできない。しかし、現状の野菜畑土壌の実態は、施設土壌の塩類集積や露地野菜畑土壌の一部でも養分過剰傾向が見られるため、たい肥の成分含有率や肥効率を考慮し、適正量の投入に心掛けなければならない。特に成分含有率の高い鶏ふんを原料としたたい肥や、油かす、魚かすなどを投入する場合は十分注意する。
 野菜の養分吸収量は、一般にカリ > 窒素 > 石灰 > リン酸 > 苦土で、石灰の要求度が高い特徴がある。リン酸を除く各成分の吸収量は、各要素ともおよそ果菜=葉菜(結球物)> 根菜 > 葉菜(葉物)である。またカリ、石灰、苦土の吸収割合は、果菜 > 根菜 > 葉菜(結球物)> 葉菜(葉物)となっている。野菜の栽培では、石灰、苦土、微量要素の欠乏症が出やすいが、施肥に当っては、三要素のほかにこれらの養分についても十分配慮する必要がある。これらの欠乏症は、土壌中の絶対量が不足する場に発生するが、最近ではむしろ、養分富化条件で塩基のアンバランスが生じ、カリ・アンモニア・石灰などと拮抗したり、pHが極端に偏って発生する場合も多い。
 施肥量もに普通作物と比べて多く、果菜 ≧ 葉菜 > 根菜で、果菜類のうちキュウリ・ナスは10a当たり30kgを超える。また、養分吸収量に対する施肥量の割合は、窒素が1.5倍である。リン酸は6.7倍で、カリは1.0倍にもなる。野菜は、このように施肥量、養分吸収量が多いため、体内養分濃度もかなり高いが、作物には一定の限界濃度と養分組成があるので、過剰施肥は濃度障害の原因となるほか、養分の不均衡による障害が多くなることに注目する必要がある。
 一般に野菜は、窒素の利用形態として硝酸態を好む。アンモニア態の割合が高まると、キュウリ・トマト・ハクサイ・キャベツ等では前半に生育が著しく阻害され、また石灰の吸収、移行を抑制して欠乏症発生の一因となる。従って、施肥量のみでなく使用する窒素の形態にも十分な配慮を要する。しかし、家畜ふん尿・有機質肥料・化成肥料の大部分は、微生物分解によりアンモニア態を経て硝酸態に変わるものが多いので、肥料の特性・地温・土壌水分を考慮して施用時期を決定することが大切である。
1. 果菜類の施肥
 栄養生長と生殖生長が併行して行われるため、養分の過不足とバランスには特に注意を払う必要がある。また、果実生産に多量の水分を必要とするので、かん水を適正に行う必要があり、排水不良地では、透水性改善による根の活力保持がきわめて重要である。
 キュウリの養分吸収量はカリ > 窒素 > 石灰 > 苦土 > リン酸であるが、果実の収穫が頻繁に行われるため、養水分も収穫期全般に供給される必要があり、後期のカリ欠乏に注意する。
 トマトは石灰・苦土・ホウ素欠乏を生じやすいので、普通肥料のほかにこれらの補給が重要である。
 ナスは吸肥力が強く、少肥では収量が著しく減少するが、窒素多施用は過繁茂となるので、分施を重点とする。収穫盛期から苦土欠乏を生じやすく、カリ多施用でこれが助長される。また、リン酸の多施用は品質低下を招くので注意が必要である。
 スイカは吸肥力が強いため、肥料に敏感に反応する。特に多肥による栄養生長過多は、着果不良の原因となるので、有機質や緩効性肥料を主体とした適正施肥を行う。
 イチゴは、充実した苗づくりのためにリン酸、カリの重要性が高い。本圃では基肥重点となるため、濃度障害に弱いことを考慮し、施肥方法ならびにかん水管理に留意する。
2. 果菜類の施肥
ア 結球野菜
 ハクサイ・キャベツは、吸収した三要素の80%が外葉に貯蔵され、これが結球部に移行するが、石灰は移動性が小さいため、不足すると心腐れを起す場合がある。また、ハクサイはホウ素欠乏を生じやすいので、たい肥とホウ素の施用が必要であるが、ホウ素は適量幅が狭く過剰害が出やすいので注意する。
 キャベツは、結球期にカリの要求量が多く欠乏を起しやすいが、過剰施用は苦土欠乏の原因となるので十分注意する必要がある。
 レタスは、品種による窒素要求量の差が大きく、pH矯正とリン酸多施用の効果が大きい。
イ 葉物野菜
 生育が早く短期間の養分吸収が必要であるため、根圏環境の改良(通気・透水・酸性改良など)が基本であり、窒素とカリの重要度が高い。
3. 根菜類
 利用部分が土壌中で伸長肥大するため、収量・品質は土壌の性質に支配されるところが大きい。耕盤破砕、心土耕などによって、ち密度・透水性の改善が基本である。生育が早いため発芽後数週間の栄養が重要で、特に窒素は収量に大きく影響するが、過剰施用すると茎葉が繁茂して根の肥大が劣る。
 ダイコンは、石灰・苦土・ホウ素欠乏を起しやすく、ニンジンの赤色は三要素の過不足と苦土、石灰過剰で低下するので、施肥量とバランスに注意する。
2)露地栽培土壌の特徴
 年間降水量の多い日本の気象条件は、本来畑土壌中の塩基の溶脱を促進するため酸性化しやすいが、野菜畑は施肥量が多く、塩基の吸収も多いため酸性化の度合いが著しい。特に連作畑では作土下の酸性化が目立ち、塩基・ホウ素欠乏が発生しやすく、化学肥料依存の施肥体系は一層これを助長している。また、野菜類は酸性に弱いものが多く、ホウレンンウはその代表的な作物として知られ、pH6.5〜7.0がよいとされている。その他の野菜も、およそpH5.5〜7.0の範囲が適性と考えられている。
 酸性土壌は、陽イオン交換容量・交換性石灰・交換性苦土の減少、活性アルミニウムの増加、リン酸固定、マンガン過剰などのほか、微生物相の悪化など作物に対して直接・間接に悪影響を及ぼし、収量・品質の低下を招くことになるので、石灰・苦土資材で反応矯正を行う必要がある。土壌の種類によって緩衝能・陽イオン交換容量が異なり、砂質土壌及び浮石質土壌などでは過剰施用すると微量要素欠乏の原因となるので、土壌診断を行い適正施用量を求める必要がある。野菜畑はカリの施用量が多いため、土壌中残存量が全般に多く、石灰・苦土とのバランスがくずれてこれらの欠乏症発生要因となる。黒ボク土野菜畑の塩基組成は、Ca55〜60% : Mg16% : K6%、当量比でCa/Mg≒3.5〜4.0、Ca/K≒10、Mg/K≒2.5となる。黒ボク土ではリン酸多施用の効果が高いが、最近一部の野菜産地では可給態リン酸含量の高いものがあり、経済性も含めて再考を要する段階に来ている。
 機械化の普及による作土の浅耕化と土壌構造の単粒化、下層土のち密度増大、通気性・透水性の低下は、野菜作の生育不良原因となっているので、有機物・塩基補給と併せた深耕が重要である。水田転換畑についても、排水性と下層土改良が良品安定生産上の基本的要件である。
3)施設栽培土壌の特徴
 施設では、雨水が遮断され土壌水分は下から上に移動するため、残存養分・副成分が表層根圏に集積する。永年固定ハウスでは、塩類濃度障害及びこれに起因するアンモニア・亜硝酸の過剰害、ガス障害、石灰・ホウ素の吸収阻害などを誘発して、不作の原因となる。
 同一品目が永年連作される結果、養分吸収が偏在して体内養分のバランスがくずれ、特定養分の欠乏を起す危険性が大きい。特に低温期を経過する作型では、根の活力と微生物活性が低下し、硝酸態窒素・カリ・リン酸の吸収と有機物、窒素肥料の分解を阻害して、作物に障害を与えるので、地温上昇を図り、根の活力と微生物活性を高めることが最も重要である。
 施設では塩類集積防止が基本となるので、露地よりも細心の施肥が必要である。特に、塩類の主体となる硝酸塩を生成する窒素肥料の多施用をさけ、土壌診断で残存量を求めて次作の施用量を決める必要がある。塩化物も可溶性塩類を生成するので、これを副成分とする肥料は避けるのが安全である。また、尿素・生鶏ふんはガス障害を生じやすいので、使用しないよう留意する。これら塩類濃度障害やガス障害の事例は、近年著しく減少しているが、現状は塩基・リン酸の集積富化による過剰障害、土壌のアルカリ化が懸念される段階にあり、思い切った減肥が必要である。
 物理性・微生物性の改善上、有機物の施用は不可欠であるが、未熟物の多量施用は窒素飢餓、有害物質の生成、土壌病原菌の増殖を招くおそれがあるので、十分腐熟したものを施用することが大切である。