作物の栄養生理と養分吸収(果樹)

作物の栄養生理と養分吸収(果樹)

栄養生理と施肥

 果樹は、定植されると同一場所で長年にわたり生育しつづけるので、植付け時からの土壌管理や施肥等の適否が、その後の生育・生産力・果実品質・樹齢の長短に影響する。したがって新植に当たっては、果樹の種類によって適正な大きさや深さの植穴を掘り、完熟たい肥の施用・土壌 の矯正・ pHリン酸の補給を行い、根群の拡大と活力を高めることが重要である。

 幼木期の生育には窒素が最も重要であるが、過剰な窒素施用は徒長的な生育となり、胴枯病・腐乱病などの主幹病害や耐寒性の低下から凍害の発生を助長するため、樹齢・樹勢・着果量に応じた施肥量を守る必要がある。リン酸・カリの要求度は比較的小さいが、新梢伸長期に吸収が多く、また、この時期には苦土の要求度が高いので、それぞれが不足しないよう施肥管理を行う。

 結果樹齢に入ると、栄養生長と生殖生長が併行的に樹体内で営まれる。この時期は炭素と窒素のバランス(C/N比)が重要であるが、樹冠拡大や樹勢維持を考慮するとやや窒素比率の高い状態維持するのがのぞましい。しかし、窒素の過剰施用は徒長枝の多発や新梢停止期を遅らせ、花芽形成が抑制されるので避けるとともに、リン酸・カリ肥料を併用し、葉への日当たりを良くする。

 苦土やホウ素欠乏は早期落葉の原因となり、花芽形成を不良にする。果実の肥大期には、多量のカリが果実に移行し、葉中濃度が低下するのでカリを補給するが、苦土の吸収阻害を生じないよう多施用を避ける必要がある。石灰とホウ素の欠乏は果実に現われやすく、品質低下の要因となるので補給する必要がある。石灰の過剰施用は鉄・マンガンの欠乏、マンガンの過剰施用は著しい生育障害を生ずるので、施肥量に十分留意する。

 結果量が多いと、樹体が衰弱し紋羽病を誘発する。この場合はやや強せん定を行い、摘らい・摘果によって適正着果量を守ることと併せて、深耕や追肥など適正な施肥と土壌管理をすることにより、樹勢維持と安定生産を図ることが大切である。

主要果樹の施肥

  1. リンゴ
     三要素の欠乏は、通常の栽培では発生しない。むしろ、窒素過剰が花芽の着生不良、果実の着色不良、果実の貯蔵性低下をきたし、石灰欠乏に起因するビタ-ピットなどの生理障害を誘発させる場合が多い。リンゴは、難溶性リン酸を吸収・利用しやすいとされ、リン酸の施用効果は現われにくい。しかし、黒ボク土での新植時に、石灰・苦土の補給を含めてようりんを施用すると、生育促進効果が大きい。カリを多施用すると石灰・苦土の吸収を阻害し、果実や葉に障害を発生させる。
     三要素のほか石灰・苦土・ホウ素も重要な要素であり、不足しないよう注意する。マンガンの過剰吸収は粗皮症発生の一因と考えられ、強酸性園に多いので、酸性改良によるマンガンの溶出防止が必要である。
     リンゴでは、普通栽培・わい化栽培とも11月の施肥を重点とし、9月の果実肥大期に少量の窒素を施用するのがよい。わい化樹は根が浅く弱いので、化学肥料の多施用は避ける。
  2. ナシ
     枝・葉・果実などの新生成組織形成には、樹体の貯蔵養分と窒素のはたす役割が大きい。貯蔵養分の蓄積は、収穫後の礼肥と基肥で高まるので、礼肥として窒素とカリの効果が大きい。
     追肥の施用時期は 目安とし、樹勢・着果量に応じて施用するが、窒素の多施用 5 月上旬~下旬をは、新梢停止期の遅れ、二次伸長・熟期の遅れ・品質低下・黒斑病の発生助長などをもたらすので十分注意する。
     リン酸は比較的要求量が少なく追肥の必要はないが、土壌中の移動性が小さいので、深耕による下層への施用が必要である。苦土欠乏は果実肥大期の新梢下葉に発生し、早期落葉の原因となるので苦土肥料を補給する。またカリと拮抗するので、カリの過剰施用を避ける。
  3. ウメ
     生育が旺盛で結果樹齢に達するのが早く、また、開花から収穫までの期間も約70~90日程度と短い。発芽期・新梢伸長期及び果実肥大期に窒素の吸収が多い。カリは果実肥大期に盛んに吸収される。基肥は10月下旬~11月上旬に施用する。礼肥は収穫後の7月、9月に窒素とカリを施用する。着果が多い場合に5月に玉肥として窒素、カリを少量施用するが、過剰施肥は生理落果を助長するので十分に注意する。酸性土壌園・弱樹勢樹では、果実成熟にともない一部で陥没症果やヤニ果の発生がみられる。これらの園ではたい肥など有機質を施用するとともに酸性改良と塩基補給のための苦土石灰資材やホウ酸入り改良資材またはホウ砂を施用することが重要である。
  4. モモ
     窒素とカリの過不足に敏感で、窒素が多過ぎると枝の徒長や生理的落果を生じ、少ないと枝の伸長不良・早期落葉を生じる。カリ不足は生理的落果や品質低下を招き、カリの過剰施用は石灰・苦土の吸収を阻害する。したがって、窒素とカリ成分の均衡が重要である。基肥施用時期は、新根の活動が早いので11月上旬とし、有機質肥料と化成肥料を併用する。礼肥は収穫後の樹勢回復・花芽の充実・貯蔵養分の蓄積増加のため8~9月に速効性窒素を施用する。
  5. ブドウ
     窒素の多少が、収量、品質に大きく影響する。一般に窒素の多施用は枝の徒長・ねむり症・花ぶるいを起こしやすく、着色不良・糖度不足などの品質低下や病害の誘発が多くなる。リン酸は他の果樹よりも多く必要とし、特に黒ボク土では幼木期の生育促進・枝の充実・花芽着生のため重要である。
     カリは果実肥大期に吸収が多いので、窒素と均衝した施用が必要であるが、過剰施用は苦土欠乏を生じやすい。ほう素欠乏はエビ症が発生し結実不良を起こすので補給しなければならないが、過剰害がでやすい要素なので施用量には十分注意する。施肥時期は一般に10月下旬~11月初旬とし、基肥を重点とする。
     休眠期からほう芽期にかけては、貯蔵養分の移行と消費に結果母枝の貯蔵養分が使われ、ほう芽期から新梢伸長期にかけては、根の貯蔵養分に依存していると考えられている。果実肥大期は新梢伸長の盛んな時期で、窒素が最も多く吸収され、葉、結果枝、果房などの新生成組織に使われる。したがって、この時期の窒素吸収量が果実品質に影響してくる。果実の収穫が終ると、今まで果実などに移行していた養分が、新梢・枝・根など樹体の充実と貯蔵養分の蓄積に使われ、同化養分の多少は、翌年の花芽の発達・発育、初期生育を左右する。
     追肥は、土壌や生育状況に応じ、窒素の肥効発現を勘案して行う。特に巨峰の有核栽培では花ぶるい防止のため窒素は減肥して、カリを主体に施用する。

果樹園の土壌管理

 近年、果樹園の土壌は、スピ-ドスプレイヤ-やトラクタ-などの重量作業機の走行や、管理作業者の踏圧によって表層直下部の硬度が増し、透水性・通気性が不良となり、根の生育伸長が阻害され生産力が低下している園が多くなっている。また、一部の園では連年の施肥により土壌表層は塩基やリン酸が過剰蓄積し、下層土では逆に塩基・リン酸の欠乏もみられる。

 このため、果樹の根域全体の土壌物理性、化学性の改善のため、トレンチャ-・バックホ-・ホ-ルディガ-などによる深耕が必要である。深耕位置は主幹から1.5m~2.0m以上離し、埋め戻した ときは掘り上げた土壌量に応じてたい肥・石灰・リン酸資材を混合しながら埋め戻す。この際紋羽病の発生を防ぐため、未熟な有機物の施用は避け、完熟したたい肥を用いる。深耕は年次ごとに位置をずらし、数年で樹(園)を1周するよう計画的に実施する。

 果樹園の土壌管理には、草生法・清耕法・マルチ法がある。近年、環境保全に対する意識の高まりから、草生栽培が多くなっている。草生栽培の利点は、土壌透水性の拡大、有機物の補給、土壌の団粒化の促進、土壌侵食・流亡の防止、肥料成分の溶脱抑制、土壌温度の調節等がある。特に西・北毛地域を中心とする傾斜地果樹園での降雨による土壌流失や中・東毛地域果樹園での冬期の季節風による表土飛散は大きな損失であるばかりでなく、環境の汚染にもつながるため、積極的に草生栽培に切り替えて行くことが重要である。

 草生栽培には雑草草生と牧草などによる草生栽培があるが、雑草草生は牧草草生に比べ生育が不均一で管理しにくく、地力や肥効がムラとなりやすく、また、草量が少ないなど問題点があり、一般的には牧草などによる草生栽培栽が望ましい。

 最近では、夏期の自然倒伏を利用して夏期の草刈の省力化をはかるため従来の牧草に加えてナギナタガヤやフェアリ-ベッチの利用も多くなっている。草生法の問題点には樹と草との養分・水分競合、病害虫の発生、刈り取りの労力などがある。このため果樹の種類、樹齢、園地の土壌条件等を考えて草種を選択するとともに、樹齢樹冠下を清耕またはマルチとする部分草生法や春先の新梢生育期のこまめな草刈り・追肥などが重要である。

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農政部技術支援課
電話 027-226-3070