有機質資材の施用
(1)たい肥等の利用実態
群馬県における家畜排せつ物の発生量(平成12年度)は3,384千tであり、このうち3,146千tがたい肥等に利用されている。これは、家畜排せつ物の約93%にあたる。残り7%は浄化処理及び焼却処理等である。一見、たい肥による有効活用がなされているように思われるが、現状はほ場への過剰利用分を含んでおり、適正施用が求められている。すなわち、3,146千tの家畜排せつ物を全県下農耕地に均等に施用すると、10a当たり3.6tに相当し、肥料成分に換算すると窒素で10a当たり24kg、リン酸で17kg、カリで18kgとなる。実際には、畜産農家の周辺農地への施用が主であり、過剰施用が問題となっている。
このように、多量の家畜排せつ物が畜産農家に集中している一方で、担い手の高齢化等に伴い、たい肥の入らないほ場も多く、有機性資源の偏在化が起きている。
また、園芸農家では完熟した良質たい肥が求められていて、未熟な家畜ふんたい肥を敬遠しているのも実状である。このようなことから、たい肥の品質向上を図る必要がある。
(2)たい肥等の利用上の問題点
- 各種家畜ふんたい肥の特性相違
家畜ふんたい肥は、その種類により養分含量、養分の分解特性、水分含量、肥効率等が大きく異なる。このため、たい肥の成分分析や窒素の無機化率等を把握することが必要である。実際のたい肥施用に当たっては、以下の項に記してある「家畜ふんたい肥の利用の考え方」を参考にする。 - たい肥の散布方法
農業従事者の高齢化等による労働力不足に伴い、たい肥の散布作業が困難になっている。こうしたことから、畜産農家からたい肥を搬入し、ほ場に散布・耕うん・整地等を行うオペレーターの確保やたい肥センター等が作業を請け負うシステムの構築が急がれている。 - 施肥によるリン酸、カリ等の土壌養分過剰
かつて、落ち葉や稲わらをたい肥の原料としていた時代は、その養分含量が低いことから特に養分過剰を考慮する必要はなかった。しかし、家畜ふんたい肥が主流となった現在では、養分集積が課題となっていることから、養分含量を考慮する必要がある。特に、リン酸は豚ぷんたい肥や鶏ふんたい肥に多く、カリは牛の尿に多い傾向がある。 - 施用時期
たい肥の施用は、播種や定植の一週間前に散布することが一般的である。窒素飢餓やガス障害が心配される場合は、一ヶ月前に散布するのが安全である。水田での家畜ふんたい肥等の直前施用は、土壌条件等によって還元障害やガス障害が懸念される。特に湿田は、たい肥施用による還元障害の発生する可能性が増加するので、秋・冬期にかけての散布が望ましい。
また、上記の理由等からたい肥の施用時期は、年間2回で大きく分けて春と秋に集中している。こうしたことを考えると畜産農家だけではたい肥を適正に保管するストックヤードが不足しており、今後は耕種農家のたい肥生産・保管を奨励し、たい肥舎等の条件整備を進める必要がある。 - 腐熟度
たい肥の腐熟度は、たい肥中の分解されやすい有機物が少なくなったものを完熟としている。完熟と言われるたい肥は、土壌に施用しても生育障害の危険性は少なく、大変使いやすいたい肥である。しかし、分解されやすい有機物が残っているたい肥も一部で流通している。このようなたい肥を使用するには、発酵を促進し温度を十分上げたものが安全である。
(3)家畜ふんたい肥の利用の考え方
1)家畜ふんたい肥の特徴と利用方法
家畜ふんたい肥は、落ち葉や稲わらを主原料にしたたい肥と比較すると窒素・リン酸・カリなど肥料成分が多く含まれている。したがって、家畜ふんたい肥を施用する場合、含まれる肥料成分を考慮する必要がある。主な家畜ふんたい肥の肥料成分とその肥効率を表-1に示す。
2)家畜ふんたい肥による窒素の代替
家畜ふんたい肥でどのくらいまで化学肥料の代替が可能であるか示す。まず、窒素成分をたい肥窒素で代替したとき各種家畜ふんたい肥をどのくらい施用したらよいかを表-2に示す。たとえば、キャベツ栽培の施肥基準は窒素20kg、リン酸21kg、カリ20kgである。このとき、牛ふんたい肥(表-1、牛、堆積、オカクズ)2tを10aに施用すると、窒素は4.2kg、リン酸12.6kg、カリ14.4kgたい肥から施用される。したがって、化学肥料は窒素15.8kg、リン酸8.4kg、カリ5.6kgの施用ですみ、化学肥料削減率は窒素21%、リン酸60%、カリ72%になる。
3)リン酸やカリからみた家畜ふんたい肥の施用量
化学肥料の窒素代替として家畜ふんたい肥を利用する場合は、リン酸やカリについても考慮する必要がある。窒素の代替のみを考えて多量に家畜ふんたい肥を施用するとリン酸やカリが施肥基準を越えてしまう場合があるので注意が必要である。
キャベツ栽培の施肥基準を基にして、窒素の4割(8kg)を牛ふんたい肥で代替しようとすると10aあたり4tの施用になり、リン酸21.6kg、カリ28.8kgが施用される。例えば牛ふんたい肥(表-1、牛、堆積、オカクズ)4tを施用すると、窒素8.4kg、リン酸25.2kg、カリ28.8kgが施用される。この施用量ではリン酸、カリの施肥基準を越えてしまい、過剰施用になる。このように、家畜ふんたい肥を利用する場合は、リン酸やカリが施用量を制限する要因となり、代替できる窒素の限界施用量となる。土壌のリン酸、カリ過剰を起こさないために、リン酸またはカリの施用量が10a当たり30kgを越えない各たい肥の施用量を限界施用量として表-2、表-3に示す。
以上のようなたい肥利活用の考え方から、現行の化学肥料で施用されている窒素の2~3割を家畜ふんたい肥で代替する方向で、各作物の適正農地還元量を設定し、指導していく方針である。
4)牛ふんたい肥・豚ぷんたい肥・鶏ふんたい肥間の代替利用の考え方
耕種農家は、主に身近にあるたい肥を利用するため、ある作物に牛ふんたい肥が望ましいとされていても豚ぷんたい肥・鶏ふんたい肥しか入手できないことも予想される。この様な時に、たい肥を利用する場合は、牛ふんたい肥を豚ぷんたい肥に読み替えて利用することが必要となり、その代替利用のめやすを表-4に示す。
5)化学肥料の代替
化学肥料の代替として施用する場合は、家畜ふんたい肥の成分含量と窒素の無機化率を明らかにするとともに、リン酸や石灰、苦土、カリとのバランスも考慮して施肥設計を立てる必要がある。
本書では、家畜ふんたい肥の成分含量と無機化率を表-5の数値とした。
(4)たい肥に求められる品質
1)取扱い易さ、散布のしやすさ
第一に悪臭がないこと。生の家畜ふんや、未熟堆肥、嫌気状態の堆肥はアンモニア、低級脂肪酸など悪臭が強く敬遠される。次に水分が適度(30~60%)であること。水分が低すぎても粉塵がたつので敬遠される。また、紛状よりも粒状に成形化されたほうが好まれる。粒状に成形することで、機械散布が可能となり広域流通にも対応できる。
2)作物、土壌にとって安全であること
発酵熱により病原菌、寄生虫卵、雑草種子が死滅していること、植物病原菌や生育阻害物質を含まないことが必要である。さらに土壌に施用したときに急激な分解や窒素飢餓を起こさないことが必要である。重金属濃度が高くないことも望まれる。
※農用地の管理基準として表層土乾物1kg当たり亜鉛120mgと定められている。
3)作物、土壌にとって有効であること
たい肥は、作物に養分を供給する役目の他、土壌の化学的・物理的性質を改善するとともに、土壌の生物活動の維持・増進、更に地力を増進することが期待されている。
なお、現在、群馬県地力増進対策協議会で行われている土づくりコンクールにおける完熟たい肥の審査基準を表-6、表-7に示す。
(5)高品質たい肥の製造
1)良質堆肥化の条件
家畜ふんを好気的条件でたい肥化するためには、たい肥の水分を65~70%程度にし、空気が入りやすい条件を整えることが大切である。たい積処理では、2週間に1回程度の切り返し、発酵槽による処理では攪拌により好気的条件を維持し、基本的には発酵熱が出なくなるまでたい肥化する。
2)取扱い易さ、散布しやすさのため
基本的に、家畜ふんを好気的条件でたい肥化すると、悪臭は低減し、たい肥中の水分は、50~70%くらいまで低下する。さらに取り扱い易い水分(50%以下)とするためには乾燥施設が必要になるが、この場合悪臭対策への配慮が求められる。また、たい肥を造粒機で造粒させるためには、たい肥水分を30%程度に低下させなければならない。
3)安全性のため
発酵熱により病原菌、寄生虫の卵、雑草の種子は死滅し、生育阻害物質も分解する。また、作物病害に対する安全性の視点から、罹病した作物残さの混入を避ける。たい肥に含まれる重金属濃度を低くするためには、飼料中に含まれる亜鉛や銅の添加量を減少させる必要があり、現在どのくらい低減できるか検討中である。
4)使いやすさのため
たい肥の肥料成分のバランスをよくするためには、他の資材との混合も考えられる。例えば、カリが多い牛ふんには、カリの少ない汚泥や茶かすの混合が考えられる。また、肥料取締法の改正によりたい肥成分の表示が義務付けられ、たい肥の肥料成分がわかるようになった。これにより、たい肥の特徴や肥料成分の効き方を推定できるようになり、たい肥にあった施用方法、施用量を求めることが可能となった。
5)品質安定のため
個々の農家で作られるたい肥の品質は比較的安定しているが、農家ごとの成分はかなりばらつきがある。広域流通での使用を考えた場合には、地域のたい肥センタ-などにたい肥を集め、品質を安定させる必要がある。
たい肥には様々な種類があり、それぞれに特徴がある。また、作物の養分吸収パタ-ンも様々である。たい肥は取り扱いが容易であり、人・作物・土壌に対する安全性が確保されていることが必要である。また、使用者がたい肥の肥料成分等の情報を基に、作物・土壌・栽培方法に適したたい肥を選択し、適切な使用量・使用方法をとることが望ましく、たい肥の有効利用を促進するためには大切である。