土壌の化学性の測定 2
土壌の酸度矯正法(酸性・アルカリ性土壌の矯正)
1)酸性土壌の矯正
1. 測定手順
乾土100gの土壌をビニールシート上にひろげ、炭カルなどを0.1g、0.2g、0.4gと量をかえて添加し、最大容水量の60~65%となる純水を加えて、500mLビーカーに入れる。ポリフィルムでふたをし、よく混ぜて3~5日放置する。純水200mLを加え撹拌し、30分してからpHを測定する。
※ 土壌は水分W%とすると、10,000/(100-W)で乾土100g相当となる。
※ 簡易な容水量の求め方:ろうとにろ紙を入れて純水でよくぬらし、水がたれなくなってから全体の重量を測定する(重量A)。その後、ろうとに土壌30gを入れて十分に純水を加え、水がたれなくなってから全体の重量を測定する(重量B)。
2. 添加量の求め方
アルカリ資材の添加量と測定したpHとの関係を図-1のように示し、図から希望するpHに矯正するのに必要なアルカリ資材の量を求める。土壌の仮比重が1の場合、乾土100g当たり0.1gのアルカリ資材は10aで深さ10cmの乾土量に換算すると100kgに相当する。
2)アルカリ性土壌の矯正
土壌がアルカリ性でpHを下げる必要がある場合には、希硫酸や硫黄粉末もしくは土壌pH降下資材を添加し、土壌が酸性の場合と同様に処理して10a当たりの資材添加量を求める。硫黄粉末や土壌pH降下資材は固体資材であり、アルカリ資材の場合とまったく同様にして求めることができるが、希硫酸の場合には以下に述べる操作が必要である。
- 試薬
5%硫酸:水約900mLに硫酸50gを加え、冷えてから更に水を加え1000mLとする。 - 処理手順
乾土100g相当の土壌をビニールシート上にひろげ、5%硫酸を1、2、3、4、8、16mLと量をかえて添加し、水で最大容水量の60%に調整し混合してから500mLビーカーに入れ、ポリフィルムでふたをし一晩放置する。水200mLを加え撹拌し、30分してからpHを測定する。 - 添加量の求め方
土壌が酸性の場合と同じく、図-2のように示して添加必要量を求め、10a当たりに換算する。
3)注意事項
- 土壌により緩衝能が異なるので、土壌ごとに添加試験をした方が正確である。
- 添加試験はビニール袋で行ってもよい。土の量を1kgとすると添加資材をグラム単位にすることができる。pHを測定するときは、その一部を供試する。
- 硫黄粉末は冬の低温期間中はpH降下に必要な微生物反応が期待できず、効果を発揮できない。希硫酸と土壌pH降下資材は季節を問わず速効的である。
- 本県の土壌は元来微酸性である。土壌がアルカリ化しpH降下を必要とするような場合は、土壌改良資材の二重投資となり大変不経済である。いつも適正域に維持できるよう、改良に心がけることが大切である。
RQフレックスによる硝酸イオン迅速分析法
1)原理
サンプル中の硝酸は還元剤によって亜硝酸になり、酸性バッファー中で生じた亜硝酸と芳香族アミンが反応し、ジアゾニウム塩を生成する。ジアゾニウム塩はN-(1-ナフチル)-エチレンジアミンとアゾカップリングし、赤紫色のアゾ化合物を生成する。この呈色部分に光を当て、その反射光の強さからサンプル中の硝酸の濃度を測定する。
2)分析機器
小型反射式光度計(RQフレックス)は試験紙と小型反射式光度計がセットになっている。試験紙のロットごとに波長の補正や検量線が書き込まれたバーコードを用いて、条件設定を行い、濃度を読みとるもので、携帯用として現場での診断が可能である。
測定方法は、試験紙を試料に浸すのと同時に光度計のスタートスイッチを押す。反応時間終了5秒前を知らせるアラーム音が鳴ったら、試験紙を光度計のアダプターにはさみ測定する。
測定結果は画面に表示される。
3)分析手順
- 乾燥した土壌10gをビーカー等にとる。
- 純水50mLを加え、充分にかくはんする。
- 土壌溶液をろ過する。
- ろ過をRQフレックスで測定する。
4)計算式
NO3イオンmg/乾土 kg=RQ測定値×5
5)注意点
- 高濃度(225ppm以上)の場合は希釈し、希釈倍率を測定値に掛ける。
- 土壌中のりん酸、石灰、苦土、加里はそれぞれSPADと同じ抽出液で同様に前処理を行い、RQフレックスにて測定。一方、ブランクも測定し、定量値から差し引く。
汁液診断
近年、小型反射式光度計(RQフレックス)による簡易な栄養診断が注目されている。特に、野菜や花の葉柄部分に硝酸態窒素が多いことから、この部位を用いたリアルタイムの栄養診断が検討されている。特に、果菜類やバラ等で汁液中の硝酸濃度の適正な目安が報告されている(地域重要研究成果報告:「リアルタイム土壌溶液・栄養診断による施設園芸作物の効率的肥培管理システムの開発」(1995)。
群馬県は専門技術員調査研究、農業技術センターの調査により若干の知見が得られたので併せて紹介する。
1)採取部位
- キュウリ :14~16節の本葉の葉柄、または、側枝第一葉の葉柄
- トマト :ピンポン玉程度に肥大した果実周辺の葉の葉柄
- ナス :最新の展開葉から3葉目の葉柄
- イチゴ :最新の展開葉から3葉目の葉柄
- バラ :採花枝の下から3、4枚目の5枚葉の葉柄
- キク :展開葉からその下の3枚目間での葉
2)汁液の採取方法
キュウリ、トマト、シクラメン等は葉柄中の汁液が多いので、1cm程度にカッターナイフで切ってニンニク搾り器で搾る。
バラは葉柄中の汁液が少ないので、葉柄部分を切り取り、それを2mm程度に切って30倍量の純水を加えて乳鉢で摩砕し、ろ過して汁液を採取する。
キクは葉をみじん切りにし、20倍量の純水を加えて乳鉢で摩砕し、ろ過して汁液を採取する。
3)測定方法(小型反射式光度計(RQフレックス)システム)
- 硝酸イオン: 試験紙を適正な倍率に希釈した試料に2秒間浸し、同時に光度計のスタートスイッチを押す。反応時間終了5秒前を知らせるアラーム音が鳴ったら、試験紙を光度計のアダプターにはさみ込み、画面に表示された測定値を読む。
- その他イオン: RQフレックスの測定マニュアルに従って測定する。
4)診断の目安
汁液診断はまだ試験例が少なく、現在のところ、埼玉県園芸試験場等の報告を参考にしているが、バラ、キクについては群馬県の中間結果を用いた。
5)シクラメンの汁液(樹液)診断
群馬県農業技術センターが作成したシクラメンの汁液(樹液)診断に基づく施肥管理技術を以下にまとめた。
1. 基本的な考え方
シクラメンの樹液中に存在する硝酸態窒素濃度は、根から吸われた窒素と、葉で同化され、有機化された窒素の収支が現れていると考えている。葉で同化される窒素のスピードは光合成によって支配されているため、シクラメンの光合成条件が良いほど窒素の有機化が進み、樹液中硝酸態窒素濃度は下がる傾向になる。反対に、光合成に適さない高温や、葉温を上げる強日照条件が続くと、上がる傾向となる。気候は人為的に操作することはできないため、樹液診断に基づく施肥管理とは、その年ごとの気候に見合った、言い換えると年ごとの光合成速度に見合った施肥量を、樹液中の硝酸態窒素濃度から判断し、不足分を補っていくという技術である。
2. 樹液採取部位
完全展開した直後の葉柄を採取し、ニンニク搾り器で搾汁したものを用いる。個体差による影響を少なくするため5鉢程度から葉柄を採取する。
3. 樹液分析をする成分
樹液診断をする成分は、施肥管理に診断値に基づき処方として反映できるものである。K2Oは窒素と同じ割合で施肥管理をしていれば、樹液値が大きく変化することがないことから、NO3-NとP2O5を週1回程度測定する。
4. 樹液中の硝酸態窒素と芽の動き
シクラメン樹液中の硝酸態窒素濃度は芽の動きと密接な関係があり(表-5)、それによって花芽が優先となるか葉芽が優先となるかの方向性が決定されると考えられる。
5. 生育ステージと樹液中の硝酸態窒素目標値
シクラメンの生育ステージと作型の関係は図-4のとおりである。「側芽の確保」から「花芽分化」、「葉数増加と花芽の伸長」の3つのステージに分けて考えることができる。それぞれのステージにおいて硝酸態窒素濃度の目標値を考慮して、施肥管理を行う(表-6 シクラメンの生育ステージと樹液中の硝酸態窒素濃度目標値、図-5 時期別の樹液中硝酸態窒素濃度管理(12月上旬出荷)樹液中リン酸目標値)。
特に「側芽の確保」ステージにおける側芽数は、最終的な葉数に最も大きな影響を与える。このステージで側芽を増やせば、秋以降の葉枚数の増加期には葉分け等の管理作業が多大となる。そのため、それぞれの経営方針や労力等を考慮し、目標とする側芽数を決定する。花芽分化期までの施肥管理は、葉数を増やして手をかける人は上限付近を目標にし、手をかけないで作る人は下限を目標にする。さらに、下限付近でも株が大きくなる場合は、播種期を遅らせる等で調整する。
6. 樹液中のリン酸目標値
樹液中のリン酸濃度は年間を通し 100~200ppmで管理する。硝酸態窒素濃度ほど施肥管理に敏感に反応しないが、芽の動きが活発になる5月下旬~6月と、9月中旬~10月にかけて急激に低下することがある。特に6月のリン酸不足は側芽数の増加に関わるので、注意する。
7. 樹液中硝酸態窒素濃度に基づく窒素施肥の処方
目標値を下回った場合に施用する液肥は、N-P-Kが1:1:1で含まれる成分比のものを使い、窒素濃度を生育ステージ別に、側芽数の確保の時期が50~150ppm、花芽分化の時期が50~100ppm、葉数増加と花芽の伸長の時期が100~200ppmに調整して施用する。施肥濃度をどの程度にするかは、1週間おきのデータが下降しているときには高めの濃度で、平行または、上昇しているときには低めの濃度を用いる。
8. 樹液中リン酸濃度に基づくリン酸の処方
リン酸は赤土等火山灰土を用土に用いた場合、施肥されたリン酸が用土に吸着され、施肥の効果が現れにくい。火山灰土を用いる場合は、リン酸の吸着量を表すリン酸吸収係数を基に、その60~80%のリン酸を基肥として施用しておく。さらに、樹液濃度が下限値から低下する場合は、第1リン酸カリをリン酸濃度が 100ppmになるよう調整し、液肥として施用する。